冷たく冴えた歯で、温かなあなたの血を啜る。

いただきますとあなたが言って、はいどうぞとオレが答える。
それはまったくいつもの日常。





ウィズ ミッドナイトムーン







白い白い咽喉の奥で、真っ赤な管が這っている。
深夜の月が、目を細めて地上を照らしている。
木々すらも声を潜めている、人々は微かな溜息と共に繰り返される悪夢を見る。
あなたが甘く香る囁きで、「ねえ」と微笑んだので、その後に続く言葉をオレはもう知っている、知っていたからその前に、「ええ」と呟いてそっと、あなたの温かな柔らかな首筋を、するりと冷たい指で撫でた。
あなたはこんなにも温かで、オレはこんなにも冷たいのにまだ足りないのか、何故こちらのささやかな温度にあなたは唇を寄せてくるのか。
いただきますと、機械的にその唇が動かされるのが、目の端に映ったのでどうぞと答えて瞼を伏せた。
きしりと冷えた夜の大気に、硝子が小さく悲鳴を上げた。
澱んだ部屋の空気は随分と黴臭く、冷たく、そして、まるで南国の異形の花のよう、酔いそうな程に甘かった。
甘い甘い、あなたの香りでむせるよう。
冴え冴えと月が光る、月光が低く差し込んでくる。閉じた瞳の向こう、あなたの白い髪は月光の下で、この上ない程に眩しく光っている。
ねっとりと柔らかな熱い舌がオレの咽喉笛のすぐ下を這いまわって、その快感に背筋がぶるりと震えた。微かな痛みに。吸い出される、不思議に心地の良い感触に。
ああなんて、としばらく後にあなたが呟いて、オレはそっと目を開いた。
目の前の開いた唇の奥で、真っ赤な舌がぬるりと蠢いて闇に消えていった。
なんて甘くてなんて熱い。
ねえ好きですよ、とそう言われたけれどもオレはそっと首を振った。
多分それは違う事だから、と首を振ったオレに、あなたは今日もまたひっそりと、淋しそうにため息をついた。







2006.05.07
吸血鬼カカシ。イルカ視点。