明日だって明後日だって。きっと、ずっと。

夕暮のチャイム





蝉の声がまるで夕立のような、午後六時日暮れ前。まだ世界はゆらゆらと暑く、熟んだ果実のように甘く気だるくすえた匂いを発していた。夕涼みと称してふらりと散歩に出てみたけれど、昼間の日差しを存分に含んだアスファルトからは未だじんわりと暑さが立ち上っているようで、どうにも堪らずいくらも行かぬうちに目に付いたコンビニへと、逃げ込むようにしてほっと息をつく。夜も煌々と明るいコンビニはまったく昼夜の区別も無いようで、今の時間も真っ白な照明にこれでもかと照らされた店内では、ぜんまいの切れかけたオルゴール人形のように緩慢な動作の店員が、いらっしゃいませとおざなりな言葉を発してレジのカウンターの中に居た。何とはなしに清涼飲料水のショーケースの前にぶらりと向かう。取っ手を握ってぐいと開くと涼しい店内よりなおも涼しい冷気がそこからどっと自分に向かって流れ出して、先程まで体内に着々と蓄積されていた外の熱気がすうっと引いていくのが感じられた。心地良さにうっとりしながらざっと視線を動かして物色すると、すぐに青いペットボトルが目に付いた。それは下段の右から四番目にさして自己主張するでもなく立ち、見たとたん今朝の事を思い出してなんだかまた身体が熱を帯びたみたいに少し火照った。青いコーラは夏の味。ほらねと舌を突き出して見せてくれた今朝の君の、その柔らかで温かい舌の上には仄かに青い色が残っていて、触りたいとぼんやり思いながらそっと自分の舌でその味を確かめるように、君の舌に残った夏の味を確かめるようにぺろりと舐めた。少し甘いような気がしたけれど多分それは僕の気のせい、君はだって夜中だよ飲んだのなんて笑ってでもその後で何とも言えない眼をして、僕を見つめてそっとキスしてきた。だから僕も、もう一度もう一度なんて何度も唇を押し付けあって、いいかげんアイスが溶けちゃうねってうんそうだねって二人、名残惜しそうに最後に唇を合わせるだけじゃないもっと深いキスをして、それから並んで同じ壁を見つめながら黙って、少し溶けて滴るアイスを食べたんだった。

手の中には青いコーラ。そして君がくれたソーダ味のアイスの当たり棒。僕は両手に握り締めてオルゴール店員を目指して、ねえ明日も君の部屋にそして明後日もその次も。外では蝉の声が止むことなくそしてどこからかチャイムがポーンポーンと緩やかに日は暮れてゆくのであった。






20040721
和谷サイド。