きみのきんいろ。

あの夏の向日葵





ブラウン管の向こうでどうやらまた、日本がメダルを一つ手に入れたみたいだった。

ミーンミーンと他の音を、何もかも掻き消すように蝉が鳴く。鳴いている窓の向こうはすっかり真夏の空、目に痛いほどに鮮やかに高く青かった。地平の方から白く、高々と盛り上がった雲とその下のとりどりの屋根の色合い、それに窓のすぐそばにすいと立ち上がった向日葵の花。向日葵の黄色。大きく呼吸を一つして誇らしげに悠々と立ちつくすこの花を今年、僕はどうやら少しだけ好きになっていた気がする。

君が、好きだと言ったから。

なんとも賑やかな蝉の声をぬって、ブラウン管がまた何だか知らない国の言葉のような、そんな蝉と似通った騒がしさでなにか、金とかそんな事を言って喜んでいるようだ。窓の外は青と黄色と白とそれから光。一面の光。真夏の太陽の強さには、どうにも眩しくて眼の奥がぼうっとなってくる。そんな景色をぼんやりと見つめる僕の耳に、君の呟くような声がひらりと入ってくる。

やあ見てご覧、彼がメダルを取ったよ。ああ嬉しい。

だからなんだろう。ふと僕は不思議に思う。彼がメダルを取ったって、僕らの生活になんの変わりもありはしない。しないだろうに、たったこの数日間ほんの半月の間に、ずいぶんと僕らはかなり立派な愛国者の仲間入りだ。そう言うと、うん俺もそう思う、と君はあっさり頷いた。でもほらこの瞬間皆が一緒に喜ぶこの瞬間、俺はとても好きだよ皆が喜んで皆が祝福している、彼を。とブラウン管を指差して君はそう言う。彼が取ったんだ彼の物だ。他の誰の物でも国の物でもないよ。たった一つの物だよ。優しい目で君が微笑んで、そう言われると僕もああそうかなと思えてしまうから、君の言葉ってやっぱり不思議だ。

夢見るような眼差しを窓に向けてああ綺麗に咲いたね俺の向日葵。と君が歌うように言って、だから僕はそれが君の、君だけのメダルなんだと気付いたんだった。






20040906
和谷サイド。