雨の日の楽しみ。

あめあめふれふれ

うれしいな

降ったらあなたと手をつなご





あめのちはれのち恋人日和







今日も里は雨だった。
昨日も雨で、一昨日も雨。
これではちっとも洗濯が乾かない、とあちらこちらで溜息の聞こえてくるよう、そんな木ノ葉の里の梅雨の季節だった。

雨が降ると、海野イルカはなんだか心が浮き立つような、奇妙に嬉しい気分になる。
洗濯物が乾かないのは確かに彼にも悩みの種だったが、それでも雨が好きなのは、一体どうした事だろう。
幼い頃「そんな名前を付けたからかな」と父が笑っていた。
雨の日に、決まってぽたぽたと髪から雫を滴らせて帰宅する息子を見る度に。
柔らかな温かな感触、石鹸の良い香りのするタオルにすっぽり包まれて、そんなずぶ濡れのイルカを拭いてくれたのは、母だった。
少し困ったように「風邪が心配だわ」といいながらそれでも父と一緒に最後にはくすくすと笑った。
耳に心地の良い、優しい綺麗な声で笑った。

あの頃は単純に、空から水の落ちてくるのが面白くて、濡れるのが楽しかった。
今は母の声と父の笑顔を思い出すから、好きなのかもしれない。

「まーたそんなずぶぬれになっちゃって」
呆れたような声が後ろから聞こえてきた。
運動場でくるりくるりと空を仰いで回っていたイルカは、足を止めて振り向かずに「きもちいいですよ」と答えた。
空から土に染み込んでゆく、静かな静かな雨だった。
仰ぐ空の向こう、雲の上には抜けるように青い色が広がっている。
雨にはその青が溶け込んでいるから、だからその雨の流れる川も海も青い。
雨に染められて、きっといつか自分もあの空と同じように、清々しくも切ないようなあの色に、なれるのだと思っていたけれど。
もう一度くるりと回れば、白い髪の先に雫を滴らせて、少し憮然とした顔ではたけカカシが「ほらもうかえりますよ」と手を差し伸べていた。
少しくすぐったいような心持ちでその手を握ると、カカシはくるりと踵を返してすたすたと歩き出す。
カカシが振り返らないままぐいぐいとイルカの手を引っ張るので、イルカは「いたいいたい」と笑いながら、そんなカカシの背中を眺めた。
イルカに負けないくらいずぶぬれになったカカシを眺めた。 「あーあイルカ先生のせいでオレまで風邪ひきそ」
大きな溜息をついてカカシがぼやく。
「あんたがかってにぬれたんでしょ」
言い返したイルカに、あのねーとカカシが向き直る。
文句を言おうとしたのか、だが二人ともまるで川にでも落ちたように頭のてっぺんからびっしょり濡れて雨の中、立っているのがなんとも滑稽に思えて、目が合うなり同時に笑い出した。
「こどもじゃないんだから」
「おたがいさまでしょ」
笑って笑って、濡れた髪がうっとおしいと手で掻き上げたタイミングがぴったり同じだったので、また笑った。
「ねえ、今日はどっちの家に行くの」
「どっちでも」
「じゃあカカシ先生んち」
「なんで」
「だって床濡れるのやだもん」
あんたけっこうわがままで自分勝手だよね、とカカシが苦笑して、そしてまた手を繋ぐ。
今度は二人で肩を並べて、帰る道すがら、雨はどうやらあと少しで上がる気配を見せていた。







2006.07.06