さやさやと、風の囁く夜に。

暗い暗い夜の底で、ふわりふわりと発光している。
お月様ひとつ。



つきよのさんぽ







さらさらさらさら。
道の脇を流れる小川の水は澄んで、川底に揺らぐ藻のひとすじまでもが、くっきりと今宵の月明かりの下、煌めく川面の下に鮮やかだった。
黒々と落ちる影、道に映った影法師はまるで墨で描いたよう、足元から長く長くまるでとてつもない大男みたい、遠くまで伸びていた。
辺りはまるで昼間のように明るいのに、道端の草叢や街路樹の陰には其処だけ夜が取り残されてしまった漆黒の闇、奇妙にアンバランスで曖昧な、時間の感覚さえなくなってしまいそう、流れる水の音と時折鳴る葉擦れの微かな響き、人っ子一人見当たらないので世界にはオレ達しか居ないのではなどと、くだらない事を考えてしまいそうで、不思議な高揚感と不安感に襲われて慌てて隣に手を伸ばす。
見れば地面の上ではオレの影法師もにゅっと隣に長い長い手を伸ばして、そして隣の影法師からも一呼吸置いて同じように伸ばされる手、顔を上げれば直ぐ横で、くすぐったそうに笑う恋人の姿、嬉しそうに「貴方から手を繋いでくれるなんて、夢みたい」だなんて、恥ずかしくて慌ててもう一度視線を落とした。
足元から伸びる長い長い影法師、溶け合うように隣の影法師と、繋いだ手はどうにももう離れそうになかったので、オレは安心してもう一度顔を上げて、隣の大好きな貴方にゆっくり微笑みかけたんだった。





2005.03.15