もう、どうしようもないほどに。


好きだと言って好きだと言って好きだと言って。

そしてもう離さないで。




フラワーレスワールド





ふと目が覚めてしまった。

夜半にどこか打上げ花火の音がした。しじまをさいてひとつ、またひとつ。はたと暗闇の中、じっと息を殺し目を開いてそれを聞いた僕だけれど、はたしてこのたった二つがこの温い熱帯夜の空気を掻き乱したきり、それきりもう何も聞こえてはこなかったのだった。夜の空気はしっかりとした圧力でもって、この布団の上この部屋の中にどろりと漂っていたから、だからもう一度目を閉じるのにも起きだして何かをするにも非常に億劫な気持ちになってしまい、しばらくじっと暗い天井、仄かに白く見える蛍光灯の丸い輪をただひっそりと見つめ続けていた。何か冷たい物を飲みたいと思ったが、思うだけであえて動きたくはないのでじっとそのまま、少し足の指先だけ動かして満足する。部屋に置いてあるポータブルの冷蔵庫が微かにうなりを上げていて、この部屋で他に聞こえてくるのは枕元の目覚し時計の規則正しく時を刻むリズム。朝、時間ともなればけたたましくこちらの意向などまるでお構いなしで鳴り続けるこれは、今はすっかり大人しいそ知らぬ顔をしてカチカチと無気力に動いていて、こんな静かな部屋ではそれすら耳に付いて離れない、なんともはっきりと聞こえてくるのだった。肺の中まで、この温く重い空気で満たされている。ふとそう思ったらどうしようもなく耐えがたく感じられて、僕は今度こそ起き上がってひたひたと裸足がフローリングを移動する音、部屋の隅のベッドと反対側の壁にひっそりと置かれている小さな冷蔵庫の取っ手を握った。ひやりと冷たい金属の硬い感触が少しすっきりした気分にさせてくれる。握った手に軽く力を込めて軽い玩具のような扉を開けると、その中一番手前に青いペットボトルが一本、はっきりとした意志でもあるかのようにきちんとそこに立っていた。

不意に、どうしようもなく和谷のあの身体に触りたいと思ったのは多分この夜の暑さに侵されていたから。

少し乱暴にペットボトルを掴み出すと僕はそれを一息にあおって、それからまた布団へとゆっくり戻っていったのだった。明日も多分和谷は此処に来て、でもその時自分が何をするかもう僕には何もわからなかったからとりあえず布団の上で丸くなった。丸くなって懸命に寝てしまおうとして、多分朝になればすっきりすると思ったから一生懸命寝ようとして、ぎゅっと瞼を閉じた途端。








携帯のメール受信音がこのどろりと重い空気を振動させて、僕の耳に届いた。




誰からかなんて、そんなのディスプレイを見るまでもなく。






20040719
伊角さんサイド。