あの頃って何を考えて生きてたんだろう。俺もおまえも。

ことことぐつぐつかしゃかしゃじゅーじゅー。

美味しい音が聞こえる。その場所。




ファンタスティック リリィ。



チャイムが鳴る。
きんこんかんこん無感動に響くその音を聞くと、どうにも自分が縛り付けられているような息苦しさを感じる、いやだいやだ、なんとまあ堅苦しいこの世界。
どうにも退屈でやる気が出ない、教壇で確かあれは化学の教師だったか、なにかまだ黒板に懸命に書き付けてはいたが、クラスの誰一人として聞いちゃいなくて、放課後の予定やら好き勝手騒ぐ奴や、携帯の画面を睨み付けて一心不乱に指を動かしている奴、すっかり夢の国へと行ったまま、最後まで誰も起こそうとはしなかった目の前の野郎の椅子を思いっきり一蹴りすると、ゾロはあーあと溜息をついた。
無造作に机の上のペンやルーズリーフや落書だらけの教科書をざらりと、擦り切れ薄汚れたスポーツバッグに放り込む、一つ大きく欠伸をしてのそりと教室を後にする、背後ではまだ教師が誰も聞いちゃいない授業を、虚しく続けているようだったが。
大体チャイムが鳴ったら拘束時間終了だろ、とそんな決め付けでリノリウムの白い廊下をぺたぺたと、踵の潰れた上靴で歩く、放課後ともなれば大概どこも騒がしく、窓の外、向かいの特別教室の棟では早速、気の早い生徒が部活動を始めているらしかった。
昇降口で上靴以上に汚らしく履き潰されたスニーカーを取り出す、目の前に並ぶ小さく仕切られた棚、中身はどれも同じようなものだ、所詮高校生男子の生態なんて似たり寄ったりだ。
退屈な生活退屈な毎日退屈な人生退屈退屈退屈。
あーあとまた、一つ大きな息を吐く。目の前の景色は何も心を動かしたりはしなかったしこの先、少なくともあと一年半の間はこれが続くのだ、と絶望に目の前が暗くなる気がする、何か面白い事でも起きない限りは。
校舎の外、出ればまだ午後の陽射しは高く、夏の残りの暑くけだるい空気と、それでも秋の高く高く少し褪せた空の青。
部活動なんてかったるくて、やる奴の気が知れない、ゾロは校門を出ると目の前のバス停の列をチラリ横目で見て、そのまま通りすぎた。
遠くにバスのシルエットが揺れる、あれに押し込まれ詰め込まれて駅まで機械的に運ばれるなんてうんざりだよとバス通りから一本裏手へ、曲がった先には細い路地の向こう、微かに潮の香りがしてきた。







夏が終わった海はなんだか淋しげで、聞こえる波の音とか、波打ち際、砂の上に残る誰かの足跡さえも、なんだか泣いているようだと思う。
仰げば午後を大きく回った太陽の陽射しは幾分和らぎ、もうじき夕暮だよと、そんな気配を漂わせながら秋の空にはすっかり夏とは違う雲がちぎれて浮かんでいた。
先程火を付けた煙草からゆるゆると昇る煙がそんな雲と溶けあって、高い空のどこかでゆっくりと秋をかたちづくっていくような、そんな気がする。
海岸の突端に突き出た消波ブロック、すっかり藻とフジツボに侵食されてしまったコンクリートの色はどこか悲しそうで、その上からぼんやりと海を眺めるのにも飽きて、サンジは立ち上がりうーんと大きく伸びをした。
海は誰もいなくて、カモメすらいなくて自分だけ世界に取り残されてしまったよう。
足元を覗いても、水の中には何の影も無くただ波が行き来するだけ、魚の陰一つ見えずに、なんだか騙された気分だった。
海の近くがいい。
と最初そう思った。
海の色、大気の青とゆるりと溶け合ったその境界線に。
思ったから、ただ海を目指し、目指してこの海に出た。目の前に広がる青は確かに海だけど、さて一体これからどうしよう。
誰もいない海岸はとても淋しくて、なんとも人恋しい気分になり、そろそろ行くかと振り返る、先程まで誰もいなかった砂浜には遠く、いつのまにか人影が一つあった。

とりあえず今日の宿は、あの人に聞いてみようか。





サンジはゆっくりと人影に向かって歩き出した。黒い鞄一つ下げて。





20040921
続いたり。