きみが好きです好きです好きです。たぶんきっと。

歌え。

この地上にこの大気にこの美しき世界に。




雲に 雪に 空に きみに






きみを好きだと言った事もきみから好きだと言われた事も今まで、実のところ一度も有りはしなかったから、だからこの関係というものは僕らにとって人生のほんの通過点に過ぎない一過性のものなのかな、などと、このところよく考える。




最近の僕はといえば、気付けばきみの事を思っている。
早朝の冷たい大気に白くけぶって吸い込まれてゆく息、部屋の窓の下では山茶花のつやつやと肉厚の葉が冬でも鮮やかに緑色、きらきらと霜に光っている、街を歩けばコートの人の波に揉まれてその中できみと同じ色のコートが目の端に留まる。

じゃあいすみさんまたあしたね。

なんて、昨日の別れ際の笑うきみの顔。
今日も昼からきみと会う、約束の公園までは僕の家からほんの10分の距離、それが今日はとてつもなく永遠で一瞬の気がする。あのいつものベンチできみが待っているとそう考えただけでなんだか、もどかしいようなくすぐったいような、だからどうしていいのやら、どうにも僕は困ってしまった。
空を見上げれば高い高い上空、きっともう雲に届きそうなほどの高くで、あれは鳥だろうか、チラリと太陽の光に反射して白く一瞬、すぐにまた空の青にゆるりと溶けていった。
北風はとうに僕らの住むこの街にしっかりと居座っていて、足元を唐突に掠めてゆく落ち葉、それもすっかり数が減ってしまったこの十二月の空の下、気が付けば今年も、もうあと幾日かを残すばかりだった。

クリスマス?えーなになにいすみさんもしかしてプレゼントくれるの?おれいすみさんにもらえるんならなんでもうれしいや。

すごく嬉しいなんて無邪気に笑うきみ、プレゼントなんてとっくの昔に買ってある。きみのあのモスグリーンのコートによく映えるような橙色のマフラー、少し渋い色合いのそれが、すっかりきちんとおめかししてリボンと薄いシフォンの紙包みの中、僕の部屋のクロゼットでもう半月ほど出番をずっと待っている。
内緒だけれど。

うんクリスマスはさーかぞくとケーキたべるだけだから。

だから予定なんて何も無いんだ、どっか遊びにいこうよだなんて軽い調子できみが言った、きみの予定の無いのに僕は少しほっとしたけれども、でもおとこふたりでいくところなんてどこにもないかなーあっみてみてあのイルミネーションすっげきれい、笑ってきみが指差すその先で街はすっかりクリスマスの空気、通りかかった雑貨屋のショーウィンドウでは、茶色のテディベアが真っ赤なサンタクロースの帽子を被って、ちょこんと座っていた。

じゃあいつものこうえんで、ひるに。

結局二人で云々考えたけれど男同士でクリスマス、行き先なんてゲームセンターとか映画館とか、そんな事しか思いつかなくって、それならどっか碁会所にでも行った方がましじゃねーのなんて笑いながら、ああきみとならどこまでだって僕は行くんだけどなあって、思った。 北極にだって、行くんだけれど。 少し大きめの鞄を肩から下げて家を出る、中にはこっそりとあの包み、ショップの店員は彼女にプレゼント?なんて微笑んで真っ白なリボンをかけてくれたけれど、いいえ彼女じゃないんですって、なんて答えれば良かったんだろう生真面目に僕が返してしまったから、じゃあ上手くいくといいわねこれはおまけよって、可愛らしいちいさなちいさなテディベアのキーホルダー、偶然だろうかきみのコートと同じ色のそれを、上手くいくようにお守り、と言ってそっとくれた。

きみへと、きみの待っている公園へと続くこの道。
そういえば昨日、雪が降ればいいよねってきみが言っていた。

だってゆきがふったらきっとみんなでてくるよ、おなじようにそらをみあげておなじように、ああきれいだねって。このそらに。そしたらほらいすみさん、おれたちふたりでこうしてさ、さむいからてをつないで、いっしょにそらをみあげてあるこうよ、だれもおれたちのほうなんてみないから。ほら、きっとみんなゆきをみている。

このそらをみている。

ああ、きみを取り巻いているこの世界。
綺麗で優しくて純粋で。そんな、雪のような。

十二月の、凍えて高く澄んで遠くどこまでも、広いこの空の下。
ぽーんぽーんと十二時のチャイムが鳴る。




会ってなにを言おうかとかそんな事を、なんでか僕は頭の隅、急ぐ足よりもっと急いで、懸命に考えはじめていたのだった。






2004.12.18
伊角さんサイド。