あおいあおい、海の色。

あかいあかいあかい

夕陽。



きみとぼくとこのへやで





うわっあっちいなと言いながらドアを開けて入ってきたきみを見て、僕は一瞬どうしていいのか戸惑ったけれど、でもきみが至っていつもどおりの様子で、あっれぇいすみさんどしたのぼーっとしてとかなんとか、ずかずかと近寄ってきていきなり僕の額に手を当てたものだから、僕はそっちに慌ててしまって、だから昨日きみと些細な口喧嘩をした事なんてきみはなんとも思っちゃいないんだとか、少し安堵したようながっかりしたようなそんな心持だった。

いすみさーん、おーいきこえますかー

あまりにびっくりしたものだからなんとも反応するタイミングを逸して、ほけっと視線を彷徨わせた僕の心はこれでもしっかり騒いでいたのだけれど、どうにも目の前のきみには伝わっていないらしかったね。きみが心配そうな表情で覗き込んだから、その睫の長さにうっとり見とれていると今度は、いすみさんあつさにやられちゃったんじゃねえのなんでクーラーいれてねえのこのへやまるでサウナだぜなんて言いながらふいときみは僕の視界から外れて西向きの大きな窓をいっぱいに開けた。大きな窓からは西日もたくさん入ってきたけれど同じくらいの風もよく入ってきたので、この部屋の不快指数はそれだけで一気に20くらい下がったみたいだ。座り込んだままの僕の視界に再びきみは戻ってきて、ねえホントどうしたのもしかしてきのうのことおこってるのきのうおれがいすみさんにちゅーしようとしたからおこってるのごめんなさいごめんなさい、そんな真剣な顔に僕はとうとう可笑しくなってしまって、あいかわらずその睫その奥の真っ黒の綺麗な瞳にうっとり見とれながら、とうとう白状した。

ちがうちがうオレだってわやにちゅーしたかったんだよでもあまりにびっくりしたものだからホントびっくりしたものだからおこってしまってごめんなさいけんかするつもりじゃなかったんだわやがかえってからずっとずっとさびしくてきょうはなにもするきがおきなかったんだわやがきてくれてホントよかった

きみがきてくれてホントよかった


きみは一瞬びっくりしたような顔をして、その綺麗な真っ黒の瞳をいっぱいに見開いてそれから、きっと僕しか見たことが無い極上の優しい顔でなんて綺麗な表情で。





カルピスの味なんてしやしなかったあれは初恋の味だっけ。きみの唇は思った以上に柔らかくてお日さまの匂いがした。そして西日の真っ赤に染まった部屋にきみと僕、ひぐらしの声がどこからか突然響いてきて、夏の夕暮。きみはにやっと笑ってそうだおみやげ、と言って差し出したコンビニの袋の中には真っ青な海の色のコーラが入っていた。






明日は海へ行こうか。ねえ。






20040628
伊角さんサイド。