あの夏の青。

ビリーブユービリーブ





良く晴れた夏の空はどこか黒いようなそんな青をしている。透き通った秋の空とはまったくの別物のようなそんな青の下、朝からすでに気温はぐんぐんと上がっていて今日も酷暑の予感がした。どうにも水浴びをしてみたい気持ちにかられ、寝起きにぬるいシャワーを浴びてはみたけれど、外の気温はいよいよ高く夏の花であるはずのヒマワリすら、すでにぐったりした面持ちで庭に黒い影を落としたまま、こちらだって爽快な気分もほんのつかの間すぐにうだるような暑さにぐったりしてしまい、朝食など食べる気力があるはずも無い。冷たいお茶とプレーンヨーグルト、それにビタミンの錠剤を一緒に流し込んだら母親がものすごく嫌そうな顔をしたので曖昧に笑って、さっさと自室へと逃げ帰った。
暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い。
どうにも思考が上手く回らず、したがって昨夜の事もあまり考えずに済んだのはありがたかったが、対策も同じように思い付きはしなかった。クーラーは嫌いなので日頃はなるべく使わないように心掛けているのだが、今日はどうにも我慢出来ずにスイッチを入れる。と途端になんともすうっと一気に暑さが身体の中から抜けてゆくような良い心地がしたので、まったくに文明様々だと窓の外を見れば、表は太陽に照らされて元気なのは蝉の声だけ、人通りすら疎らなそんな道の向こうから、間違えるはずもない。ひとつ影が見えた。

明日も遊びに行く

何時にとかそんなの一言も書いてなかったけれど、なんとなく朝から来るような気がした。そんな気がしたので一言、

いいよ

とだけ返して、それからすぐに寝てしまったから窓の外、もう顔が分かるくらいの距離でこちらを見上げて笑った顔、それを見てなんだかほっとした、そんな心持だった。窓を開けて声をかけようとしたら階下から母親の声、それはいつものように勤めに出る母の日課のような、出掛けるなら戸締りは…や、洗濯物を…や、じゃあ行って来るから…や、そんな類の言葉で、それに適当に返事を返していたら玄関の扉の閉まる音、ややあってから階段を上る足音が近づいてきた。がちゃりとドアノブを握ったままきみは、きょうもあついねえいまそこでいすみさんのおかあさんにあったよはいこれおみやげ、なんて今日は60円のソーダアイスを2本買って来た、そんな事にすら僕は今の僕はくらくらしてしまう。君の手の中の涼しげな水色のアイス、これを食べ終わるまでに僕の中の正体不明の熱が冷めればいい、本気でそう願いながら僕は、

やあ和谷いらっしゃい。

と、そ知らぬ顔で呼びかけたんだった。




きみと一緒に溶けてしまいたい。






20040721
伊角さんサイド。